19話の夜を考える 月と包帯

本編19話で一同は
劉鳳が世話になった町
に集結する。
この回のラストは夜で終わるが、次の回になるといきなり朝になっている。
いったいこの晩、皆はどこでどうやって夜を過ごしたのだ?
ホーリーメンバーは翌日になると、みんなで見張り小屋の中で話合いをしている。
しかしあの小屋にはベットらしきものは、1つしかない…。
カズマはかなみちゃんといっしょである。であるからして、あの小屋に泊まったことは少々考えにくい。
だいたい泊まっていたら大変だ。
もう、アレに決まっている。
朝までアレだ!!
となると、あの小屋には劉鳳、桐生さん、シェリス、橘、及びクーガーが泊まったことが考えられるが、年頃の男女が集まり、何事も起こらなかったのだろうか。
そこで今回は多くの人が興味深く思うこの19話の夜について考えてみたいと思う。
例によって、橘に訊いてみた。
すると、なかなか面白い出来事に遭遇したらしいことが判明したので、
学歴のない橘に作文してもらった。
そのためいつもの
柳橋りよの王朝風なみやびな世界
と異なるかもしれないが、そこは彼に免じてご了承ねがいたい。
(万一、学歴のない橘の文章が不快に感じたら、それ以上読むのをやめることをお薦めする)
この講座は、橘が綴った奇妙な夜の出来事を鑑賞する講座である。
それでは、ゆっくり鑑賞してみよう。


 ショートストーリー   月と包帯      執筆 橘あすか (注・柳橋りよではない)
これはみんなで劉鳳が世話になった町の見張り小屋に泊まった夜の話である。
この小屋にはベットは一つしかなかった。
4人で話し合いをした結果、ベッドは桐生さんが使い、その横にシェリス、ついで僕、そして劉鳳と、この順で3人は川の字に並んで眠ることが決定した。
クーガーはクーガー号の中である。カズマはかなみちゃんという少女といっしょに町の人の中にいれてもらっている。ちゃっかりしている奴である。
劉鳳とシェリスに会うのは8ヶ月ちょっとぶりであるが、この二人は相変わらずである。二人は床につくと30秒後には夢の中であった。
桐生さんは1分後には寝息を立てる。
そういう僕も5分後にはスコーンと眠りに落ちた。
その日は昼間の疲れもあって、全員が爆睡状態であった。
井戸の底にいるみたいで気持ちよかった。
地面はしっとり湿っていてひんやりしている。すぐ両脇には、シェリスと劉鳳がいる。こちらもしっとり湿ってして今度は逆に暖かい。
なにもこんなに張付いて寝なくてもいいのだが、なにしろ蒲団の枚数が限られているのだからしょうがない。
劉鳳とシェリスはそんなことは気にしない人である。僕もそうである。寄り添うようにして眠る僕らを桐生さんはどう思っただろう。
きっとうらやましかったんだろうな。
僕がベッドを使って、桐生さんと変わってやってもよかったのだが、さすがに、劉鳳とシェリスと桐生さんがいっしょに床をとるのはマズイだろうということで、こういう並びとなった。
この配置はベストだったと今でも思う。なにしろ、これを提案したのは、この僕、エタニティ・エイトの橘あすかなのだから。
ふと傍らが寒い気がして目が覚めた。見るとすぐ横にいたはずの劉鳳がいない。
やられた!夜這いか?
僕は慌てて桐生さんが眠るベットを見た。でも、ちゃんと彼女はそこにいる。
じゃあ、シェリスか?けどそんなことはもちろん違う。シェリスは僕の隣ですやすやと眠っているのだから。
じゃあ、劉鳳は何処にいったんだ?
まさか、カズマのとこか?
マズイですよ!
止めに行かなきゃ、劉鳳に抜け駆け 面倒をおこされては大変だ。僕はいそいで小屋の外に出た。
外は月が出てきて明るい。探すまでもなかった。こうこうとした青い月明かりの中、ちょこんと岩の上に腰掛けている劉鳳の後姿が30メートルばかし先に見えた。
180センチの強暴な大男にちょこんという形容はおかしいようだが、そのときは本当にそう見えたのである。
あんなところに一人で座って、何しているんだろ?
僕は足元の岩に注意しながら彼の背後に近づいて声を掛けた。
「劉鳳、どうしたんです。こんなところで。」
返事はない。
前かがみになって何かをしているようである。いつもピシッと伸びた背中がかがめられている。手元を動かしているようだが、この位置からは何をしているのかは見えない。
聞こえなかったのだろうか?僕は劉鳳の前に回り込むように近づいてもう一度声を掛けようとした。
が、次瞬間最悪の事態を想像してやめた。
そうだ、戻ったほうがいい、そう思って回れ右をしたときである、劉鳳の硬質のやや低い声が聞こえたのは。
「橘、ちょうどいいところに来た、お前にやってもらいたいことがある。」
劉鳳は背中を向けたまま言った。
「橘、手伝ってくれ。」
「手伝うって何をですか?」
「お前にやってもらいたい。」
「やるって何を?」
「きまっているだろ」
「きまっているって…?」
・・・(汗)
僕は最悪の事態を想像して、固まった。
逃げよう、ここは逃げる場面である。
しかし、劉鳳はそんな僕にお構いない。ゆっくりと立ちあがり、月明かりを背中に受けて、こちらを振り向き、手の中に握ったそれを見せた。
マズイですいよ!
劉鳳の手の中にあったものは、
包帯であった!!
「包帯・・・」
「包帯がほどけてしまってな。結びなおしていたところだ。どうした、橘?」
「ああっもうっ、何でもありませんっ!」
馬鹿である。

「頼む」
「わかりましたよっ、はいっ、早く腕を出してくださいっ。」
僕は劉鳳の腕をさっととった。彼は手首に巻いてあった包帯が取れてしまって、小屋の中では暗いので、ここで結びなおしていたようである。
性格とはうらはらに、手先だけは器用な劉鳳であったが、一人で手首に包帯を巻くのは難しいらしい、いや、一人でも出来るのだが、几帳面な性格ゆえ、きっちりと綺麗にきつく巻いてないと気がすまないらしい。
「きつくな。」
当然のように言う。劉鳳は誰に対しても尊大な態度だが、僕に対してはなおさらそうである。でも、僕も慣れてしまっているのでなんとも思わない。
どうだっていいと思っている。
ほこほこと包帯を手首に巻き始める。怪我をしているわけでもないのに、何でこんなの巻いているだろ?聞こうかと思ったが面倒くさいのでやめた。
包帯の先を二股に分けて、ぐるりと最後は2週させてぎゅっと固く縛る、きつくだ。先っぽは中にきちんとおり込んで出来あがりである。同じように反対側もやる。
「これでどうですか?」
「ああ、いい。」
それだけ言うと、さっさと行ってしまった。へんな人である。
僕も彼の跡について小屋に戻った。二人の少女は何事もなかったように、眠っている。
また再び僕と劉鳳はいっしょに横になる。いや、シェリスもいるから3人かな。
例によって劉鳳は30秒後には死んだように寝ていて僕をあきれさせた。
起きているときは偉そうなぶっちょう面の劉鳳も、寝顔からは大人しそうな人にしか見えない。
こうして見ると優しい人なんだけどな。
しかし、翌朝、僕は劉鳳の怒りの声で目が覚めるのであった。
「橘っ、包帯が緩んできているぞっ!きつくといったのに。なんだこれはっ、やりなおしだっ!」
そんなわけで、起き抜けそうそう包帯巻きをさせられる僕ことエタニティ・エイトの橘あすかであった。

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